【2021年8月最新】任天堂VSコロプラ特許紛争!事件・ニュースを弁理士が解説

古くはファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、ゲームボーイ、プレイステーション、そして最新のNintendo Switch──1970年代にテレビゲームが登場して以来、ゲーム機本体とゲームソフトの技術は絶えず進化してきました。

なかでも、ゲームで有名な会社といえば、任天堂やソニーといったハードウェアを製造・販売している会社を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

その一方で、フィーチャーフォンで遊べるソーシャルゲーム(GREEやmixiといったSNS上で遊べるゲーム)が爆発的に流行し、その後に台頭したスマートフォンがアプリゲーム市場を座巻したことにより、ゲーム業界にも新たな波が巻き起こっています。

たとえば、これまでゲーム機本体をメインに製造していた大企業がゲームアプリの開発に着手したり、00年代に設立された若きベンチャー企業がゲームアプリをヒットさせて一躍有名企業の仲間入りを果たしたり。ゲーム業界は、時代とともに変遷を繰り返し、私たちに新鮮な感動を与えてくれます。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

知財の権利紛争

そんなゲーム業界ですが、実は知財の権利を巡って数々の訴訟問題が引き起こされてきました。いまでこそ著作権をはじめとする権利に守られているコンピュータ・プログラムですが、テレビゲームが登場した当時はプログラムを保護することを明確に謳う条文が国内に存在しませんでした。

そんな日本で初めてコンピュータ・プログラムに著作権が認められたのは1982年。当該プログラムを小説などと同じカテゴリーに属する「言語の著作物」として法律で保護することが認められたのです。

そして、法改正により、コンピュータ・プログラムが著作物として著作権法に明記されたのは1985年のことでした。 以降、ゲーム会社は各社で自社の技術の権利化を進めてきました。なかでもその先陣をきっているのが任天堂です。任天堂の知的財産部は、国内の法務部門でも最強であると囁かれており、高度な知財戦略を展開しています。

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任天堂VSコロプラ社の特許紛争

任天堂は、近年ではゲームメーカーであるコロプラ社を相手に、44億円もの損害賠償を請求する特許権の侵害訴訟を起こしています。 訴訟の対象となったのは、コロプラ社の大ヒット作である『白猫プロジェクト』。2014年7月に配信が開始された同作品は、Android・iOS用のスマホゲームアプリです。

基本的に無料でプレイできますが、一部のアイテム購入などで課金が発生します。国内だけでなく、台湾、香港、マカオ、フィリピン、タイ、インドネシア、カナダなど世界各国で配信され、絶大な人気を誇るコロプラ社の代表作です。

争点は「ぷにコン操作システム」

この『白猫プロジェクト』において、提訴されているのがキャラクターを操作するための通称『ぷにコン操作システム』。タッチした場所に白いスライムのような表示が現れ、その場所を起点としてキャラクターを操作することができる機能です。 スマートフォン本体のディスプレイは、操作ボタンなどがなく、平らで無機質なイメージですよね。しかし『ぷにコン操作システム』は、画面内に立体的かつ柔らかみのあるバーチャルパッドを表示させ、ユーザーが滑らかかつ自在に操作できることを可能としたシステムなのです。

任天堂は、この『ぷにコン操作システム』をはじめとする合計で5つのプログラムが任天堂の特許を侵害しているとして、2017年12月にコロプラ社を訴えました。

徹底抗戦のコロプラ社と、迎え撃つ任天堂

これに対し、コロプラ社は当初、特許権の侵害を否定。任天堂の特許に新規性や進歩性が乏しいとして特許が無効であることを訴え、徹底抗戦の構えを見せました。 対する任天堂は、コロプラ社に訴訟を提起する一年以上前から訴訟の準備を入念に進めていたとされています。

任天堂は、2016年に自社の特許の請求範囲を訂正しました。 これは、特許の構成要件を絞ることで、コロプラ社の『ぷにコン操作システム』が任天堂の特許を侵害しているとの見方をより強めることのできる戦術であるといえます。 裁判では、この請求範囲の訂正が功を奏し、任天堂に有利な状況が続いています。

前述のとおり、コロプラ社は任天堂の特許における新規性・進歩性の欠如を訴え、無効資料を提出しました。 しかし、任天堂が事前に特許の請求範囲を訂正していたことで、無効資料上で指摘されやすい曖昧な要件が打ち消され、コロプラ社が特許無効の抗弁を主張しづらい状況を形成したのです。

コロプラ社の方向転換?

2020年2月、コロプラ社は訴訟の最大の争点である『ぷにコン操作システム』の仕様変更を発表しました。これまでの『ぷにコン操作システム』は、タッチした場所を起点に指を離すとアクションスキルが発動するというものでしたが、これを機に、ぷにコン上に表示されるボタンを押すとアクションスキルが発動するという仕様に変わったのです。

この動きは明らかに任天堂との訴訟を意識したものであり、これまでの徹底抗戦から和解による解決へと戦略を転換したのではないかともみられています。

前述のとおり、裁判はコロプラ社にとって芳しくない状況が続いています。任天堂の請求が全面的に通ることになれば、44億円もの多額の損害賠償を支払うだけに留まらず、大ヒット作であり自社の看板作でもある『白猫プロジェクト』の配信まで差止められてしまうことになるのです。

スマホゲームが好きなユーザーにとって、コロプラ社といえば『白猫プロジェクト』はどの作品を差し置いても真っ先に名前があがるほど重要なコンテンツです。コロプラ社は、任天堂に訴訟を提起された直後には株価が急落し、東証1部の値下がり率ランキングにおいて首位に名を連ねるなど、この一件でさまざまな打撃を受けています。

この仕様変更により、『ぷにコン操作システム』が任天堂の特許の請求範囲に含まれなくなっても、仕様変更前までの損害賠償については遡って請求されることになるでしょう。

それでも、徹底抗戦が難しいのであれば、損害額を少しでも低く抑えるためにコロプラ社の動きは有効といえます。 コロプラ社は、この仕様変更について、ユーザーに対し以下のメッセージを発信しています。

引き続き係争中ではありますが、白猫プロジェクトを今後も長く皆様にお楽しみいただくための対応となります。今回の件が影響し、白猫プロジェクトのサービスが終了するということは断じてございません。 (『白猫プロジェクト』公式ウェブサイトより

任天堂が損害賠償請求額を倍に引き上げ

2021年4月21日、コロプラ社は自社ホームページにおいて任天堂からの請求金額が変更されたことを発表しました。 発表の内容によると、任天堂からの「訴えの変更申立書」が発行されたのは2021年4月13日付け。

請求金額がこれまでの49億5000万円から96億9900万円に引き上げられたとのことです。 任天堂からコロプラ社に対する訴訟の請求金額といえば、2020年12月21日にも当初の44億円から49億5000万円への変更を申し立てたばかり。半年足らずの期間で請求金額が倍増したことになります。

請求金額を引き上げた背景

任天堂が請求額を引き上げた理由について、コロプラ社の発表では「原告は、本件訴訟の提起後の時間経過によって請求金額を追加したというものです」とされています。

請求額は、その金額が大きくなるほどに裁判所へと支払う手数料も増えていくという仕組みです。つまり損害賠償額を倍以上へと引き上げた今回の一件において、任天堂は裁判所に対して高額の手数料を払っていることが窺えます。

それでも大幅な請求金額の変更を行なった背景にはどのようなことが考えられるでしょうか。 任天堂がコロプラ社に対して行なっている特許権の侵害訴訟。

コロプラ社の『ぷにコン操作システム』が任天堂の特許権を侵害し、それによって任天堂が不利益を被ったとして2017年12月より争いが続いています。

おそらく任天堂は、コロプラ社の影響で自社が被った不利益として当初から今回の変更後の請求額である96億9900万円を算出していたことが考えらます。 それではなぜこのタイミングで請求額を引き上げたのでしょうか。

このケースでは訴訟の進捗が任天堂にとって有利な状況に進んでいると考えられるでしょう。なぜなら前述の通り、原告側が裁判所に支払う手数料は請求金額の大きさに比例して増加するもの。

勝機が不明瞭な状態で大きな額の損害賠償を請求しては、高額の手数料が無駄になってしまう可能性もあるでしょう。そのため、あらかじめ訴訟の長期化を想定した上で自社にとって有利な材料を揃え、勝訴の可能性が大きくなってきた段階で金額を引き上げたという戦略なのでしょう。

強気な姿勢を崩さないコロプラ社

こうした状況でありながら、コロプラ社は依然として自社の主張を崩していません。今回の請求金額引き上げにおいても、今後の見通しについて「当社は、当社のゲームが任天堂の特許権を侵害する事実は一切無いものと確信しており、その見解の正当性 を主張していく方針です。」と発表しています。

コロプラ社の現預金は2021年3月末の時点で600億円以上。仮に96億9900万円という賠償額を支払ったとしても、企業経営の根幹を揺るがすものではないと考えられます。

しかしながらコロプラ社の2021年1月〜3月の売上高は106億9900万円。四半期の売上高に相当する金額を支払って無傷でいられるなどと、楽観視しているわけではないでしょう。

争点となった『ぷにコン操作システム』が搭載されたスマホゲームアプリ『白猫プロジェクト』は、2021年7月で7周年を迎えます。それに伴いコロプラ社は記念イベントやアニメの配信などを実施。

同社の看板コンテンツともいえる『白猫プロジェクト』を今後も維持・発展させていくためにも強気な姿勢を崩さないことがブランディングの一環であるとの見方もできます。

任天堂とコロプラの和解が成立

2021年8月4日、任天堂は自社ホームページにおいて『特許権侵害訴訟の和解成立のお知らせ』を掲載しました。

発表によると、コロプラ社が任天堂に対して特許に係る今後のライセンスも含めた和解金を支払うことで、訴訟の訴えを取り下げるとのこと。和解の対象となる特許はぜんぶで6件です。

さらに、コロプラ社も自社ホームページにおいて『和解による訴訟の解決及び特別損失の計上に関するお知らせ』を掲載しました。

和解に至る経緯として、2017年12月22日より任天堂から提起された訴訟において、2021年2月21日、そして2021年4月21日にも請求金額が引き上げられた件を改めて記載。その上で、「和解による早期解決を図ることが最善であると判断し、このたび、和解について合意に至りました。」と発表しています。

さらに和解金の総額が33億円であることも、この発表によって明らかになりました。コロプラ社は和解金を支払うにあたり、この33億円を2021年9月期第3四半期において特別損失として計上するとのこと。しかしながら2021年9月期第4四半期以降において、連結業績に影響を与えるものではないとしています。

コロプラ社が和解に踏み切った理由とは?

コロプラ社では、本件訴訟の対象プロダクトである『白猫プロジェクト』が2021年7月に7周年を迎えたばかり。7周年記念キャンペーンや新たなグッズの販売など、さまざまな企画を展開しています。

そしてゲーム作品の将来をもっとも大きなく左右するのはユーザーの存在。既存ユーザーはもちろんのこと、新規ユーザーを獲得するには、突然のサービス終了などを憂うことなく安心してゲームを楽しめることが前提といえるでしょう。

そうした状況において、優秀な法務部を擁する任天堂との訴訟がゲームのイメージに与える影響は計り知れません。訴訟が長引くことでのリソースの消費はもちろんのこと、こうした企業・ブランドイメージを守るためにも今回の和解が最善であると考えたのではないでしょうか。

また、コロプラ社は現在Nintendo Switch™用ソフト『Shironeko New Project』を開発中。このタイトルは当初2020年に発表される予定でしたが、企画内容の見直しを行なうとして発売時期が未定となっていました。

Nintendo Switch™は言わずと知れた任天堂製品。2017年12月より続いた訴訟の影響が少なからず及んでいる可能性も考えられます。

スマホゲームが隆盛を迎える現代において、コンシューマーゲームの中で爆発的な人気を誇るNintendo Switch™。コロプラ社は今後コンシューマーゲーム開発においても積極的にチャレンジしていく構えを見せており、こうした背景からも任天堂との確執をこれ以上長引かせたくなかった事情が垣間見えます。

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米国企業にも勝訴した任天堂知的財産部

2013年、任天堂はアメリカのiLife Technologies社より訴訟を提起されました。争点は任天堂のWiiリモコンであり、iLife Technologies社の加速度センサー技術の特許を侵害しているというものです。

訴訟の根拠となったのは、モーションセンサーで人の転倒を検知することにより、乳幼児突然死症候群を防ぐという特許でした。これを軸に、iLife Technologies社は6件の特許侵害を訴えています。

しかし、うち5件については2016年に米国特許商標省により無効が言い渡されました。 そして残り1件について、2017年、任天堂は裁判に敗訴。1010万ドル(約11億円)の損害賠償の支払いを命じられたのです。

しかし、2020年1月、合衆国テキサス州北部地区地方裁判所ダラス支部にて特許侵害の主張が無効であるとの判決が下されました。これにより、1010万ドルの損害賠償支払い判決は覆され、任天堂は逆転勝訴を収めたのです。

訴訟大国とも呼ばれるアメリカで、多額の損害賠償を命じられても、長期戦の構えで逆転勝訴を勝ちとった任天堂知的財産部の戦略と持久力の高さを示す事例となりました。

▶︎法改正により訴訟事例が増加についてはこちら

まとめ

私たちの身近な製品やコンテンツにも影響を与えている特許紛争。今回事例を紹介した任天堂とコロプラ社の訴訟は現在も続いており、両社ともに根強いファンを多く抱えていることから、その動向が大きく注目されています。

自社で開発した渾身の製品が他者の特許を侵害しているとして、莫大な損害賠償を支払ったり、製造・販売の差止めを命じられたりすることのないよう、特許にまつわる技術情報は常に注目しておきたいものです。

参考元:特許権侵害訴訟の和解成立のお知らせ|任天堂株式会社/株式会社コロプラ公式HP/四季報ONLINE|東洋経済新報社