【弁理士監修】特許侵害ってどこから?リスクを回避する方法

テレビコマーシャルやインターネット上のWeb広告などでよく見かける、「特許出願中」「特許取得済み」のコピー。技術力が高く、資本の大きな企業ほど多くの特許を持っているというイメージを持っている方も少なくないでしょう。

しかし、近年では設立年数の浅いベンチャー 企業などでも特許を取得しようという動きが積極的になってきました。

社内に専門の部署がなくとも弁理士に相談しながら知財に関する知見を高めている企業も多く、そうしたベンチャー 企業が知財をより身近に感じられるようにセミナーを開催している弁理士事務所なども増えています。

実際に、社員20名以下のベンチャー企業が先進技術を保有し、公的な事業開発や研究に協力しているケースも珍しくありません。そうした企業は、圧倒的な技術力や発明で大企業と対等に渡り合うこともできるのです。

そして、それらの知的財産についてしっかりと権利を保有し、ビジネスに活かすことで企業の成長だけでなく、産業の発展にも大きく貢献しているといえるでしょう。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

特許侵害のリスク

その一方で、特許は取得を目指すことだけがすべてではありません。たとえば、あなたが勤めている会社にはきっと同業他社が存在すると思います。その中には、おそらく多くの特許を取得している企業もあるでしょう。

そんなときに気を付けたいのが、知らず知らずのうちに他者の特許を侵害しないようにすることです。仮に、自社独自の発明だと思っていた製造方法が実は他者の特許発明だった場合、特許紛争は免れません。

訴訟に発展すれば金銭的にも時間的にも大きな負担を抱えることとなり、さらに、コンプライアンスを守れない企業としてイメージの低下までをも招いてしまいます。

ベンチャー企業では、少数精鋭の名のもとに、一人の社員が複数の業務に従事していることも珍しくありませんよね。

経験したことのない業務を手探りで進め、失敗を繰り返して社員も事業も成長していくというスタイルを大切にしている企業も少なくないでしょう。しかし、特許については別問題です。一度でも権利を侵害してしまえば、「知らなかった」で済まされる問題ではありません。

では、特許権の侵害を回避するために、企業としてどのようなことができるのでしょうか。特許権を自社で保有しているか否かを問わず、企業として抑えておきたい対策と、高いリスクヘッジが見込める手段について解説します。

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パテントクリアランスとは?

特許権侵害を回避する方法の一つに、パテントクリアランス(特許クリアランス、FTO-Freedom To Operate-調査、侵害予防調査などとも呼ばれる)があります。

パテントクリアランスとは、自社の製品が他者の保有する特許権を侵害していないかどうかを確認することを目的とした重要なコンプライアンス活動です。これは、製品開発時や製造時などの特定の時期に限らず、製品販売前まで継続的に確認、把握しておくことが求められます。

一般的なパテントクリアランスの方法は、以下のとおりです。

  • 自社の事業に用いられる自社技術の特許調査を行なう
  • 調査により抽出された特許権と、自社技術とを対比させる
  • 侵害のおそれがあるか否かを検討する

上記は、自社の事業が特許に抵触しないかを確認する非常に重要な工程です。調査を行なう中で自社の技術が他社の特許権において「特許請求の範囲」の構成要素を含んでいる否かを精緻に調査し、特許権侵害の危険を取り除いていく必要があります。

そして、調査の結果、もし自社の技術が侵害にあたる可能性が高いと判断されたときには、下記の手順を追っていくことが大切です。

  1. 先使用権が適用されるか否かの確認
  2. 無効資料調査の実施
  3. 代替技術の提案および設計の変更
  4. ライセンス契約および特許権譲渡の交渉

(1)先使用権とは

他者が特許出願をした時点で、自社がその特許出願にまつわる発明を用いた事業を展開していたり、その事業の準備をしていたりした場合、それらの実施行為を継続できる権利を指します。

先使用権を行使するには、以下の事実を客観的に証明するための資料が必要です。

  • 当該特許の出願当時、すでに事業として実施していた、または事業を実施する準備をしていた
  • 他者の出願当時、その事業でつくられた製品が当該特許の権利範囲に含まれているもの(製造方法、機能、使用方法など)であった
  • 他者の出願当時、その製品が当該特許とは無関係であり、自社で独自に発明したものであった

実際に係争となると、これらの事実関係を証明する必要が生じます。特許出願していれば、特許庁がその日付を証明してくれますが、特許出願せず、トレードシークレットとして秘匿管理していた場合はそうはいきません。

一般的には、公証役場に出向いて「確定日付」を取得することになります。これにより、自社がその発明を実施ていたことを示す文書等に日付の情報が付き、いざとなった場合に裁判所に提出できる証拠となります。現在では、この作業をオンラインで簡易に実施する「電子公証」手続も可能となっています。

(2)無効資料調査(公知例調査)とは

すでに成立している特許であっても、審査過程で見落とされた資料などを調査し、特許が無効であることを主張するための調査です。調査を経て、無効審判や特許異議申し立てなどにおいて新規性や進歩性が否定されると、当該特許を無効にすることができます。

実際のところ、適切な公知例資料を発見できれば、確実に特許を無効にしたり、少なくとも自社プロダクトが侵害しない範囲に「減縮」させることができたりします。

こうした調査は弁理士などの専門家に依頼するか、もしくは(1)(2)を自社で実施することもできます。実際に、インターネット上で特許を検索できるデータベース(特許情報プラットフォーム『JーPat Pat』)を活用し、自社で対応しているという企業も少なくないのです。

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ただし、(3)以降の設計変更やライセンス交渉といった工程においては高い専門知識が必要となるため、専門家の協力を仰ぐことをお勧めします。

前述のとおり、パテントクリアランスは企業のコンプライアンス活動において重要な役割を持っています。特許取得を検討していないという企業であっても、日常業務の一貫として取り入れることで、いざというときの備えになるでしょう。

標準必須特許の取得

Patent

パテントクリアランスのほかに特許侵害を回避する方法として、標準必須特許を取得するという手段があります。

標準必須特許とは

業界の技術標準を満たすために必須となる発明を「特許請求の範囲」に含めた特許のことです。

たとえば、パテントクリアランスを行なった結果、他者の特許を侵害する状況になっていたとします。このとき、前述のパテントクリアランスの工程でできることは設計の変更やライセンス交渉となりますが、それよりも強い切り札となるのが標準必須特許なのです。

なぜなら、標準必須特許権を保有していれば、同業他社は業界における標準化の基準を満たすために、自社の標準必須特許を侵害せざるを得なくなります。

これを自社が侵害するおそれのある特許を有する企業に当てはめると、自社と相手企業の両社が互いに特許を侵害することになりますよね。この状況に持ち込めば、利害の一致によりクロスライセンス契約を結び、円満に解決できる可能性が高まるのです。

クロスライセンスとは

特許権を持つ複数の企業間で、互いの特許を相互に利用しあえる制度です。これにより、特許紛争を回避できるだけでなく、ライセンス料の支払いも免れ、さらに新たな発明を生み出すきっかけにもつなげていくことができます。

パテントクリアランスでは継続的に同業他社の特許に気を配っていなければなりませんが、標準必須特許を取得すれば、上記のフローで特許権の侵害を回避できるだけでなく、クロスライセンスをうまく活用して自社の技術をより高めていくことも可能です。

また、この標準必須特許は、自社で出願・権利化するだけではなく、第三者から購入したりすることもできます。今や、自動車もコネクテッドカーの時代になり、あらゆるものがインターネットにつながる時代、例えば5G等の無線通信の世界は、標準必須特許なくして事業を行うことができません。

インターネットやIoTの普及により、今まではあまり関係がなかった様々なプロダクトについても、標準必須特許の有無によりその事業化の可否が左右される時代になってきています。

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「標準化」とは、製品などに対して一定のルールのもとに規格や仕様を定め、互換性を確保することを指します。たとえば、乾電池がどの企業の製品であっても単一、単二……とエネルギー容量に応じて同じサイズになっていますが、これも標準化されているためです。「標準化」によって多くの人々が製品を安全に利用でき、産業の発展を促進させていくことにもつながっていきます。

まとめ

特許発明は、企業や個人の絶えまぬ努力により生み出されたかけがえのない知的財産です。その権利は尊重されるべきであり、企業はもちろん、産業全体の永続的な発展を支えていくためにも適切に利用されることが望ましいと考えられます。

特許を保有していないという企業であっても同業他社の動向にアンテナを張り、自社に降りかかる可能性のあるリスクを回避していくことが重要です。