2019年5月に「特許法等の一部を改正する法律」が公布され、意匠法が大きく変わりました。本記事では2020年4月に施行された改正項目について着目し、施行前と比較しながら詳しく解説します。

1.改正意匠法(2020年4月施行分)の改正項目7選
2019年5月公布の「特許法等の一部を改正する法律」は、2020年4月より段階的に施行が開始されました。このうち、2020年4月1日に施行されたものが以下です。
- 「保護対象の拡充」
- 「関連意匠制度の拡充」
- 「意匠権の存続期間」
- 「創作非容易性の水準の明確化」
- 「組物の意匠の拡充」
- 「間接侵害の対象拡大」
- 「損害賠償算定方法の見直し」
2.保護対象の拡充
従来の意匠制度において、意匠の要件として求められてきた「物品性」。しかしながら改正意匠法では、「物品性」のないデザインの多くが保護の対象として加えられました。
2-1.「画像」のデザイン
これまではパソコンやスマートフォンなどの電子機器において、機器にあらかじめ記録されている操作画像などが意匠の対象となっていました。
一方で、機器に記録されておらず後からインストールしたり送信されたりした画像については、意匠として認められていませんでした。
しかしながら2020年4月の施行より、
ただし意匠登録が認められる「画像」は、そのデザインによって機器本体や機器に関連するサービスなどの価値や利便性を向上させるものに限定されています。
意匠権の対象となるには、
- 「機器の操作のためにデザインされたもの」
- 「機器が搭載されている機能を発揮した結果として表示されたデザイン」
でなければならないのです。
たとえば「ECサイトの商品購入画面」や「アプリを起動するためのアイコン」は「機器の操作のためにデザインされたもの」となります。
また、「医療用測定機器の結果表示画像」や「街頭のプロジェクションマッピング」などは「機器が搭載されている機能を発揮した結果として表示されたデザイン」にあたります。
一方で、そのどちらでもない画像、たとえば映画やゲームなどのコンテンツ画像やデスクトップの壁紙などの装飾画像は意匠登録の対象外となります。
2-2.「空間」のデザイン
これまで建築物は意匠権の対象とされていませんでした。しかしながら昨今の空間デザインにおけるニーズの高まりに応え、意匠法の改正を機に「建築物」および「内装デザイン」も保護の対象となりました。
近年は「オフィス家具と関連機器」「インテリアとアパレル」のように、自社の製品を用いた特徴的な店舗デザインを設計し、トータルプロデュースを行うことで顧客の購買意欲を高める販促が増加しています。
しかしながら、これまでは複数の物品を一つの意匠として登録することができず、家具や設備などを個別に意匠登録しなければなりませんでした。
改正意匠法ではそうした課題が解消され、複数の物品の組み合わせや配置、壁や床などの装飾からなる全体の「内装デザイン」が、「統一的な美感を起こさせる」として意匠登録できるようになったのです。
3.関連意匠制度の拡充
関連意匠制度とは、基礎となる意匠(本意匠)と類似する別の意匠の登録が認められる制度です。
3-1.これまでの課題
従来の制度では、関連意匠が認められるのは本意匠に類似した意匠だけでした。たとえば、本意匠Aに類似する意匠BはAの関連意匠として認められますが、Aとの類似点がなくBとだけ類似している意匠Cは関連意匠として認められなかったのです。
また、これまで関連意匠は本意匠の意匠広報発行前までしか出願ができませんでした。出願から意匠広報発行までの期間はおよそ7ヶ月~10ヶ月程度であり、平均して1年にも満たない期間です。
しかしながら近年では、独自の世界観を打ち出した自社製品共通の一貫したデザイン戦略への需要が高まっており、従来の関連意匠制度では類似意匠を連鎖的に保護できないことが課題となっていました。
さらにこうしたデザインコンセプトはブランドやメーカーが長期的に育て、成長させていくものであることから、出願可能期間が短いこともマイナス面が大きかったといえます。
3-2.改正後のポイント
意匠法の改正を機に、3-1.であげた課題が解消されました。類似した意匠が連鎖的に保護されるるようになり、出願可能期間も大幅に延長されたのです。
具体的には、本意匠Aと類似した関連意匠Bがあり、Bだけに類似した意匠Cも関連意匠に、さらにCにのみ類似したDも関連意匠に登録されるといった形で「関連意匠にのみ類似する意匠」も認められるようになったのです。
さらに出願は、これまでの「本意匠の意匠広報発行前まで」から「本意匠の出願日から10年を経過する日前まで」可能となりました。
これにより、市場で消費者の動向を長期的に観測しながら連鎖的な意匠を登録することができるようになりました。
4.存続期間の延長
従来の意匠法では「意匠登録日から20年」が意匠権の最長存続期間でした。この期間が、改正意匠法により「意匠出願日から25年」へと延長されました。
5.創作非容易性の水準の明確化
意匠の登録要件は、
- 「産業において利用できるものであること」
- 「これまでにない新しい意匠であること」
- 「意匠が容易に創作できるものでないこと」
が規定されています。
3つ目の「意匠が容易に創作できるものでないこと」を「創作非容易性」といいます。これまでは対象となる意匠の業界に属する者が、国内および海外で「公然と知られた」形状、模様、色彩またはこれらの結合を容易に創作できた際には、この要件を満たさないと定められてきました。
この「公然と知られた」という定義に加え、改正意匠法では
- 「頒布されている刊行物に記載された」
- 「電話やインターネットなど通信回線を通じて社会一般の人々が利用可能になった」
が新たに規定されました。
この新たに追加された2つの定義は、現実に不特定多数の人々に知られた意匠でなくともその基準に該当します。このように「創作非容易性」の水準を明確にすることで、創作性の高い意匠が的確に保護されるようになったといえます。
6.組物の意匠の拡充
組物とは、セットで使用されることが想定された複数の物品による組み合わせを指します。たとえばナイフとフォーク、机と椅子、鍋とフライパンなどです。
2-2で「複数の物品を一つの意匠として登録することができなかった」と解説しましたが、組物については全体的な統一が認められた際には意匠登録が例外として認められてきました。
しかしながら、これまでは組物の全体にしか意匠登録が認められませんでした。一方で、組物の物品における一部分に対して意匠登録を行いたいという声が高まっていました。
これらの要望を受け、改正意匠法において組物の一部分も意匠として認められるようになりました。たとえば鍋とフライパンであれば、その持ち手の意匠のみが組物の部分意匠として登録可能になったのです。
7.間接侵害の対象拡大
これまでは、たとえ侵害品であっても部品を分割して製造・輸入などを行なった際には意匠権の侵害行為であると見なされませんでした。
2020年4月の施行より、これらの行為も悪意によって行われた場合には意匠権が侵害されたと見なされるようになりました。
8.損害賠償算定方法の見直し
これまでの意匠法では、侵害者が販売した侵害品の数量のうち、権利者の生産能力や販売能力などを超える部分においては損害賠償額が減額されていました。
しかしながら意匠法の改正により、権利者の生産能力や販売能力などを超える部分においても減額されないことになりました。
9.まとめ
テクノロジーの発展や市場の動向の変化を受け、柔軟な登録が可能となった意匠権。以前は登録できなかったものでも、法の改正を機にさまざまな意匠が登録できるようになりました。
権利の存続期間も最長25年と長く、長期的な販売戦略を練るうえで欠かせない知的財産の一つであるといえるでしょう。
この記事の参考資料
businesslawyers
特許庁
keiyaku-watch
令和元年改正意匠方
IPTech
https://www.businesslawyers.jp/practices/1280
TM特許事務所