【弁理士監修】意匠とは?出願方法・費用のメリット・デメリットを徹底解説

日用品を購入する際、重要な検討要素となるデザイン。価格や性能の差があまりない場合などには、デザインが購買の決め手となった経験をお持ちの方も少なくないでしょう。本記事ではそんなデザインにまつわる意匠権について、基本的な知識をわかりやすく解説します。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

意匠権とは?

意匠とは、「形・色・模様・配置などにおいて工夫がめぐらされたデザイン」のことです。しかしながら、特許庁で定義されている「意匠権」は、「産業財産権」の一つ。上記の基準に加え、「量産が可能な産業に寄与する物品等の商業デザイン」であることが前提です。

意匠権における要件を満たしていると判断されたものが意匠登録され、出願人に意匠権が付与されます。意匠権の存続期間は、出願日から最長で25年間です。

意匠登録の目的とは?

意匠登録をする目的は、意匠にまつわる権利を保護すること。意匠登録がなされていることで、他社からの模倣を抑止することも可能です。模倣行為を発見した際には、意匠権を行使してただちに模倣の中止を要求することもできます。

身近な事例

電化製品や洋服、自動車、文房具など、さまざまな製品で意匠が登録されています。身近な事例としては、AppleのワイヤレスイヤホンAirPods Proも登録された意匠です。

また、物品全体だけでなく、一部分だけを部分登録することもできます。たとえば、同じくAppleのApple Watchは、時計本体とバンドが別々に部分意匠として登録されています。

意匠権取得までの流れ

意匠登録の手順について解説します。

先行意匠調査

先行意匠調査の目的は、意匠登録の出願前に類似したデザインがすでに登録されていないか調べることにあります。先に類似のデザインが意匠登録されていれば審査は不合格です。

また、意匠登録がされているデザインを無断で使用した場合には権利を侵害したとして損害賠償を請求されるケースもあるため、調査は入念に行ないましょう。

出願

意匠登録の出願には、「願書」と「図面」が必要となります。願書には出願人や創作者の氏名、物品の名称、意匠に関する説明などを記載します。

図面には、出願するデザインを

  1. 正面図
  2. 背面図
  3. 右側面図
  4. 左側面図
  5. 平面図
  6. 底面図

の6面図を一組として記載します。物品の形状などが伝わりづらい場合には、「斜視図」なども別途添付します。また、図面の代用として写真や見本、ひな形などを提出することも可能です。

審査

意匠権では、「方式審査」と「実体審査」が行なわれます。方式審査は、書類が様式に則って記載されてものであるかを確認する審査です。

一方、実体審査では少なくとも

  1. 新規性
  2. 創作非容易性
  3. 先願性

の3つの登録要件を満たしているか判断されます。要約すると、「まだ誰も見たことがない」「誰も簡単に真似できない斬新なデザイン」を「誰よりも早く出願する」ことが重要です。いずれか一つでも登録要件が欠けている場合、意匠登録は認められません。

拒絶理由通知

審査で登録要件を満たさなかった場合、特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。この通知に対し、出願人が拒絶理由通知の発行日から40日以内に応答しなければ拒絶査定となり、出願料も返却されません。

拒絶理由通知に対しては、「手続補正書」を提出して「願書や図面を補正する」か、「意見書」を提出して「審査官の判断に反論する」ことができます。

拒絶査定

拒絶理由通知に対して補正や意見の申し立てなどを行なっても判断が覆らなかった場合、「拒絶査定」がなされます。

この査定に対してさらなる反論を行なう場合、拒絶査定から3ヶ月以内であれば「拒絶査定不服審判」を請求することが可能です。拒絶査定不服審判では、当初審査を行った審査官とは異なる審判官3名による審理が行なわれます。

拒絶査定不服審判でも登録不可と審決された場合、審決謄本が送達されてから30日以内であれば、知財高裁に対して審決取消訴訟の提起が可能です。

登録査定

審査を順調に通過した場合、あるいは拒絶理由通知への補正や意見申し立て、拒絶査定不服審判などを経て登録要件を満たしていると判断された場合、「登録査定」がなされます。そして登録査定後、特許庁に対して登録料を支払うと意匠が登録されます。

意匠登録までにかかる費用

意匠登録までには、「出願」「登録」「権利の更新」においてそれぞれ費用が発生します。さらに、特許事務所に代行を依頼した場合には、さまざまな工程で手数料が発生します。

調査費用

先行意匠調査を自力で行う場合、費用はかかりません。しかしながら、特許事務所へ詳細な調査を依頼し、状況を把握したうえで的確な打ち手を実行することで意匠登録の確度を上げることができます。

特許事務所へ依頼した場合の代行費用は30,000円〜60,000円程度が相場です。

商標調査のやり方・費用について詳しくはこちら

出願費用

出願の際、特許庁に対して出願料16,000円を納付します。
※特許事務所に出願手続きの代行を依頼する場合、願書や図面の作成なども含めた代行費用の相場は50,000円〜200,000円程度です。図面の数などによっても金額は変動します。

補正書・意見書の作成費用

拒絶理由通知が届いた際、自力で意見書や補正書を作成する際の追加費用はかかりません。

しかしながら図面の補正や審査官に対する意見の申し立てなどは、専門知識がなければ容易に対応できません。こうした場合でも特許事務所に手続きの代行を依頼していると対応がスムーズです。

拒絶理由通知への対応における代行費用の相場は40,000円〜100,000円程度。補正書なのか意見書なのか、どのような内容を記載するのかで金額は変動します。

登録費用

登録査定後、特許庁に対して登録料を支払います。初年の登録料は1年分で8,500円。2年目以降も権利を維持したい場合には、各年ごとに登録料を納付する必要があります。

登録料は最初の1〜3年が毎年8,500円、4年〜25年目までは毎年16,900円です。

さらに先行意匠調査や出願、拒絶理由通知への対応などを特許事務所に依頼していた場合、登録査定が出ると追加で成功報酬が発生するのが一般的です。成功報酬の相場は40,000円〜80,000円程度です。

特許事務所に依頼!費用と相場についてはこちら

意匠登録のメリット

意匠登録を行なうメリットは主に4つあります。

他社からの模倣の抑止

意匠権の権利範囲は境界が曖昧であり、権利範囲が類似であるか否かが判断の基準となります。個人や知識のない団体がこうした判断基準を見極めることは難しいため、意匠登録されたデザインは必然的に模倣を避けられます。

また、実際に模倣行為を見つけた際には権利を行使して模倣を中止させることができます。

ライセンス収入の獲得

権利者は他社に対して意匠登録されたデザインの使用を許諾することができます。これによってライセンス料を得ることも可能です。

認知度および信頼度の向上

意匠登録されたデザインは特許庁のお墨付きを得た信頼できるデザインであるといえます。それによって企業や製品などの認知度、信頼度が向上し、取引先の拡大や既存顧客との結びつきの強化などに繋げることができます。

特許がもたらすスタートアップ成功秘訣についてはこちら

類似意匠の取得防止

意匠登録後に公開された意匠について、他社が類似または同一の意匠を登録することはできません。

また、仮にデザインの発案者や所属団体などが意匠登録を行なっていなかったとしても、すでにそのデザインを使用した製品が世間に発表されている場合は「まだ誰も見たことがない」という登録要件を満たさないため、他社が類似または同一のデザインを意匠登録することはできません。

意匠登録のデメリット

意匠登録にまつわるデメリットは主に2つです。

登録までの期間

意匠権は、出願から設定登録まで半年〜1年程度の期間を要します。この期間を短縮すべく、特許庁では早期審査制度を実施しています。急ぎで権利を取得したいと考える際には制度を積極的に活用していきましょう。

商標の早期審査についてはこちら

金銭的な負担

意匠権を取得するには出願料と登録料が必要です。また、2年目以降も権利を維持するには更新料の納付が必要です。さらに、特許事務所に手続きの代行を依頼した場合には追加費用も発生します。

しかしながら意匠登録をせずに製品を販売することのデメリットは計り知れません。他社の模倣に対してアクションを起こせず、デザイン変更や売上の減少などを余儀なくされることを考えると、意匠登録における費用は必要経費であるとの見方もできます。

まとめ

製品の売れ行きや企業イメージをも左右する商業デザイン。オリジナリティの高いデザインを創作し、意匠登録をして権利を保護することは企業の未来を守ることにも繋がります。

意匠登録について迷っているという方は、まずは特許事務所へ相談してみてはいかがでしょうか。