【弁理士監修】外国で特許を取るには?国際特許出願の仕組み流れを解説

日本の特許庁を通じて取得した特許権の効力が発揮されるのは、日本国内に限定されます。外国の企業に外国で発明を模倣されても、日本国の特許権しか持っていなければ、その国の企業に対して権利を主張することは叶いません。

海外での事業展開や、外国企業からの模倣などを防ぐには、国ごとに特許を取得しなければならないのですこの記事では、世界的な規模で特許を出願する際に便利なPCT出願(国際特許出願)について解説します。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

1.全世界対応の特許権は存在しない

「国際特許」という名称を聞くと、世界中の特許権が取得できるというイメージが浮かびがちです。しかしながら、世界中で通用する特許権は存在しません。

特許そのものは、各国で個別にさらなる手続きを行ない、国ごとに審査を受ける必要があります。そのため、特許を取得する国の数に応じて手数料などの費用も増えていきます。国際特許出願とは、あくまで諸外国における出願手続きを一度に済ませるための仕組みなのです。

2.PCT出願(国際特許出願)とは?

PCTとは「Patent Cooperation Treaty」の略称。PCT出願は1.で解説した通り、あくまで諸外国における出願手続きを一度に済ませるための仕組みです。

PCT出願では、一つの言語、一回の国際出願手続きを日本の特許庁に対して行なうことで、PCT加盟国内のすべての指定国への出願をしたと同様の効果を得られます。

2-1.PCT出願の注意点

PCT出願において気をつけなければならないことは、国際出願手続きを終えたからと言って、指定国で自動的に審査が始まるわけではないという点です。実際に審査を希望する国に対して個別に国内移行手続きをしなければ、審査は行なわれません。

3.パリルート(パリ条約)とは?

海外で特許を出願する際、PCT出願とは別にパリルートによる出願方法があります。パリルートによる出願はパリ条約に則って行なわれる手続きであり、特許を取得したいと考える国に対して個別に出願をする方法です。パリルートでは、その国の言語、その国の法律に従った形式で出願書類を作成しなければなりません。

4.PCT出願とパリルート、どちらが良いか?

PCT出願とパリルートによる出願、どちらを選択するかは特許を取得したい国がどれだけあるかによって変わってきます。

4-1.PCT出願が有利なケース

「多くの国々で特許を取得したい」もしくは「特許をどの国で取得するか迷っているため、出願だけ先に済ませておきたい」と考えるならPCT出願がおすすめです。

2.で解説した通り、PCT出願では本来なら煩雑な各国での出願手続きを一度にまとめて行なえます。加えて2-1.では注意点として挙げていますが、実際に審査を受けることを決めた国に対して国内移行手続きが必要となるため、じっくりと検討した上で「やっぱりこの国で審査を請求するのはやめよう」という判断もしやすくなります。

PCT出願では出願後に国際調査機関による調査報告が届きます。調査結果によって現状では特許取得が難しいようであれば該当の国において審査を受けない(国内移行手続きをしない)、または出願書類を補正する、といった次の一手を見極めることができるのです。

4-2.パリルートによる出願が有利なケース

パリルートによる出願は、特定の国で特許を取得したいと考える際におすすめです。パリ条約では、日本での特許出願日から1年以内であれば優先権を主張できます。

この優先権とは、各国での審査における新規性や進歩性などの重要な判断が、外国での出願日ではなく日本での出願日を基準として行なわれる権利です。また、各国で手続きを直に行なうため審査も早期に開始されます。

5.PCT出願のフローと費用

最後にPCT出願の具体的なフローと費用について解説します。

5-1.国際特許出願

日本国内での基礎出願から1年以内に国際特許出願を行ないます。国際特許出願にかかる手数料は、

  • 国際特許出願の用紙の枚数が30枚までの場合は153,600円
  • 30枚を超える場合は、用紙1枚につき1,700円
  • オンラインで出願した場合、上記の合計金額から34,600円が減額されます。

5-2.国際調査

国際特許出願後、国際調査機関から調査報告書と見解書が届きます。調査報告書には出願した発明の指定国における先行技術の有無が記載されており、見解書には出願した発明における新規制や進歩性の有無などが記載されています。

国際調査にかかる手数料は調査機関によって異なります。日本の特許庁による調査の場合は

  • 日本語による出願1件につき70,000円
  • 英語による出願1件につき156,000円

欧州特許庁による調査の場合は

  • 236,100円(国際出願日が2021年7月31日以前の場合は221,100円)

シンガポール知的財産庁による調査の場合は

  • 174,000円(2021年9月1日以降は183,400円)

インド特許庁による調査では

  • 法人の場合14,400円、個人の場合3,600円となっています

5-3.国際公開

国際特許出願後、優先日(日本での特許出願から1年以内に国際特許出願を行なった場合は、日本での特許出願日)から1年半後に発明内容が国際公開されます。費用は発生しません。公開された発明は、パテントスコープから閲覧できます。

5-4.国際予備審査

出願人の任意で受けられる審査です。5-2.で受けた国際調査機関の見解書をもとに明細書などを補正でき、補正後の内容が国際特許出願においてどれだけ新規性や進歩性があるかなどを改めて判断してもらえます。さらに審査官との対話による意見交換なども可能です。

国際予備審査にかかる手数料は

  • 日本の特許庁において日本語の場合は26,000 円
  • 英語の場合は58,000 円となっています

予備審査の請求期限は国際調査報告及び国際調査機関の見解書又は国際調査報告を行わない宣言の送付の日から3月、又は、優先日から22月のうちいずれか遅く満了する期限のうち、いずれか期限の遅い日までです。

国際予備審査の報告書は、優先日から28月まで、もしくは国際予備審査の開始から半年以内のうち、いずれか遅い日までに作成され送付されます。

国内移行

国内移行の手続きは、原則として優先日から2年6ヶ月以内が期限です。国内移行の手続きの際には、各国の翻訳文の提出が必須です。

国内移行時の手数料は国ごとに異なりますが、日本国の場合、出願審査請求量は、

  • 日本国特許庁が国際調査報告を作成した国際特許出願では、83,000円+(請求項×2,400円)。
  • 日本国特許庁以外が国際調査報告を作成した国際特許出願では124,000円+(請求項×3,600円)

となっています。

まとめ

国ごとに異なる出願の手続きをまとめて行なえるPCT出願(国際特許出願)。国際調査機関による調査を受けられたり、実際に特許を取得する国をじっくりと検討したりと、さまざまなメリットが受けられることで注目が高まっています。

海外市場での事業拡大が企業の発展の鍵を大きく握っていると言っても過言ではない昨今、複数の国の特許取得に向けて手続きやコストを簡略化できるPCT出願は飛躍への第一歩と言えるでしょう。