【弁理士監修】商標の早期審査とは?費用相場とメリットを詳しく解説

ビジネスの展開において欠かせないシンボルである商標。その商標において、通常よりも短い期間で審査が完了する「早期審査」をご存知でしょうか。この記事では、早期審査の概要や費用の相場、メリットなどについて解説していきます。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

早期審査制度とは

2021年現在通常約13〜14ヶ月ほどかかる商標登録の審査期間が、約2〜3ヶ月程度の短い期間に短縮される早期審査制度。すでに出願済みの商標登録出願にも適用されます。

近年はインターネットの普及や法律改正などにより、起業や新規ビジネスの立ち上げに対するハードルが低下しています。また、商標権の重要性への理解が深まりニーズが増加したことから、多くの団体や個人が商標登録出願を行なうようになりました。その影響により商標登録出願から特許庁の審査が始まるまでの期間が年々長くなっています。

しかしながら消費者のニーズが目まぐるしく変化する近年では、出願を終えてから商品の販売やPR活動をするまでに1年以上の期間を要するのでは市場に乗り遅れてしまいます。

商品名やロゴマークを伏せた状態では満足な販促ができません。そのため多くの事業者が商標登録出願の段階で商標を含むプレスリリースの発表や広告の出稿を行なっています。

とはいえ、すでに販促を行なっていても審査で認められるとは限りません。最終的に登録が認められなければ、リブランディングするために商標を一から考案し直さなければならなくなるのです。商標の早期審査制度とは、そうした状況を打開するために非常に有効な制度といえるでしょう。

早期審査制度の申請要件

早期審査制度は誰もが無条件に活用できるわけではありません。申請には3つの要件があり、そのいずれかを満たしていなければならないのです。

1.商標をすでに使用または使用の準備を進めており、なおかつ緊急性を要すること

商標をすでに使用していること、あるいは準備を進めていることを示すためには、その事実を客観的に証明できるものが必要となります。たとえば公開済みのWebサイトや印刷済みのパンフレットの商標記載、商標印字済みのパッケージや試作品などがこれに該当します。

Webサイトやパンフレットでの使用または使用準備については、受・発注を示す資料やデザインの決定稿、商標の使用が報道された事実を示す資料なども求められます。

また、この証明には商標の使用または使用の準備が対外的に進んでいることを証明する必要があるため、社内や一部関係者に限定したWebサイトの使用イメージ案やパッケージのデザイン案およびその事実を示す資料だけでは要件を満たしたことにはなりません。

また、緊急性を示す要件は以下のいずれかを指します。

  • その商標が第三者から無断で使用されている、または使用の準備が進められている
  • その商標が第三者から使用または使用の計画について警告を受けている
  • その商標を使用したいという第三者からライセンスを求められている
  • その商標を海外でも出願している
  • その商標をマドプロ国際出願の基礎出願にする予定がある

2.出願書で指定されたすべての商品・サービスの使用または使用の準備を証明できること

出願書では商標を使用する商品やサービスを指定する必要があります。この場合、商標を使用してきた事実を客観的に示す実績、ないし本格的な準備を行なってきた事実を示す実績のない商品やサービスについては、出願書に記載することはできません。

3.出願書で指定した特定の商品・サービスの使用または使用の準備を証明できること

(2)の要件を証明できない場合、現時点で使用やその準備に実績を示すことができる商品やサービスのみ早期審査の申請が可能です。

現時点では使用または使用の準備を証明できない商品・サービスについては改めて通常の商標出願を行なわなければなりません。

4.早期審査の対象外となる商標

(1)〜(3)の要件いずれかを満たしていた場合でも、例外として早期審査の対象外となる商標があります。

たとえば、出願商標が『JIPS』というネーミングであることに対してパッケージに記載されている商標が『ジェイアイピーエス』など、出願書に記載された表記と実際に使用している表記が異なる場合です。

また、出願商標が『JIPS』という文字入りのロゴマークであることに対してパッケージに使用している商標が文字なしのロゴマークである場合など、出願書に記載されたデザインと実際に使用しているデザインが異なる場合なども対象外となります。

さらに、2015年4月より新たに商標としての出願が認められるようになった「新しいタイプの商標」も、対象外となります。

具体的には、

  • 文字や図形などが変化する「動く商標」
  • 文字や図形などがホログラフィーにより変化する「ホログラム商標」
  • 単色または複数の色彩から構成された「色彩のみからなる商標」
  • 音楽、音声、自然音など聴覚で認識できる「音商標」
  • 文字や図形などを記載する位置が特定されている「位置商標」

が該当します。対象外となる理由は、商標の特性から審査および審理においてより慎重な判断を要するためです。

早期審査制度にかかる費用と相場

第一に、自力で申請を行なう場合は費用は発生しません。しかしながら早期審査は複雑であり、専門知識も必要となります。本業の合間に付け焼き刃で申請を行なって不合格となるよりも、特許事務所などの専門家を擁する機関に依頼をすることが審査に合格する可能性を高める近道です。

特許事務所に依頼した場合、手続きにかかる費用の相場はおよそ2万円〜4万円程度。2万円前後の場合は1区分ごとに価格を設定されていることが多く、3〜4万円程度の価格では区分の数を問わず一律の価格設定となっていることが多いでしょう。

▶︎商標登録!知っておきたい費用と相場についてはこちら

早期審査のメリット、デメリット

それでは早期審査におけるメリット、デメリットについて確認していきましょう。

メリット

早期審査制度は、以下のような人にとってメリットの大きい制度です。

ビジネスの状況において緊急性の高い人

たとえば第三者がその商標を使用しようとしていたり、ライセンスを求められていたりする場合。また、商標登録が必要な媒体において登録番号を求められている場合。さらに、契約の締結など会社の業績を左右する状況から早く権利化をしてしまいたい場合などがこれに該当します。

審査結果を早く知りたい人

2021年現在、通常の商標登録出願では審査が完了するまでに13〜14ヶ月ほどを要します。そのためもっと早く審査結果を知りたいという人にとって、2〜3ヶ月程度で合否を知れる早期審査制度は非常に便利な制度です。

リスクを回避したい人

審査の結果、商標の登録が認められなければ事業にさまざまな影響が及びます。特に商品名やロゴマークのイメージなどが売れ行きを大きく左右する場合には、その商標が登録できることが確定するまで二の足を踏んでしまう人も多いでしょう。リスクを避けたい人にとっても早期審査制度は大変便利です。

審査の結果、合格であれば販促をさらに充実させたり、拒絶されれば新たな商標を出願して販促に反映させたり、合否が早く判明することによって柔軟な対応ができるようになります。

▶︎商標権の侵害事例まとめについてはこちら

早期審査のデメリット

早期審査を行なううえで考えられるデメリットは以下2つです。

  • 権利範囲が狭くなる可能性があること
  • 外部に手続きを依頼する場合は費用が発生すること

2-(2)・2-(3)で解説した通り、早期審査では商標の使用実績または準備を証明できる商品・サービスのみが早期審査の対象となります。

つまりそれらの客観的な事実を証明できない商品・サービスは対象外です。そのため、当初想定していた権利範囲のすべてを早期審査制度では申請できなかった場合は改めて出願の手続きを行なわなければならず、費用と時間を要します。

たとえば、あなたが一つの商標について洋服とアクセサリーと家具の3品目を商標出願し、早期審査を申請したとします。しかしながら申請した段階では使用または使用準備を客観的に示すWebサイトやパンフレットなどの証明資料が洋服しかありませんでした。この場合、洋服以外の品目については印紙代などの手続きにかかる費用を再び払って出願しなければならないのです。

▶︎初めての商標出願!必要な準備と審査の流れについてはこちら

まとめ

ビジネスに緊急性を要する人やリスクを回避したい人にとってメリットの多い早期審査制度。一方で、外部に手続きを依頼する場合には費用が別途発生します。

しかしながら、さまざまなリスクを考慮しながら早期に審査結果を得るためには正確な手続きが必須であり、特許事務所などの専門機関に相談することが一番の近道といえるでしょう。