商標出願の思わぬ落とし穴?商標調査のやり方・費用を弁理士が徹底解説

商標出願の前に必ず済ませておきたいのが商標調査。リスクを避け、登録の確度を高めるために欠かせない工程です。この記事では商標調査の方法や費用、注意点などについて解説します。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

1.商標調査で押さえておきたいポイント

引用:J -Plat Pat

自力で商標調査を行なう場合、主に使用するのは特許情報プラットフォーム「J -Plat Pat」とGoogle検索です。

1-1.調査範囲を設定しよう

商標調査では、まず調査範囲を決めることが大切です。一つは商標の呼び名を決めること。そして商標区分を特定することです。

まず商標の呼び名について解説します。たとえばあなたがアパレルブランドを立ち上げたとしましょう。商標となるブランド名をあなたは「SP DAYS」と名付け、「スペシャルデイズ」と読ませることにしました。

しかしながらこの表記では「SP」を「スペシャル」ではなく「エスピー」と読む人も多いことが予測されます。警察用語の「Security Police(セキュリティポリス)」を思い浮かべる人もいるかもしれません。

あるいは「スプーデイズ」「サプデイズ」など、頭文字から連想される読み方をする人がいることも考えられます。

このようにさまざまな読み方を連想されてしまう、あるいは読み間違いが考えられるような商標では、正式な呼び名以外にも考えられる呼び名をピックアップしておくことが必要です。

商標区分

次に商標区分について解説します。商標出願では特許庁で定められた商標区分をもとに、その商標がどのような商品やサービスのカテゴリにおいて用いられるかを特定する必要があります。

商標とは登録されればすべての権利を独占できるわけではありません。出願時に特定した商標区分において審査で認められた範囲のみ権利を保有することができます。

仮に同じ商標がすでに登録されていたとしても、まったく異なる商品区分であれば登録できる可能性は充分にあるのです。そのためまずは出願したい商標において考えられる商品区分を余すことなくピックアップし、特定することが重要です。

あなたは立ち上げたアパレルブランドにおいて洋服だけでなく服飾雑貨も取り扱い、一つのブランドでライフスタイルをトータルコーディネイトできる商品構成にしたいと考えています。

この場合、商標区分は

  • 「洋服、ベルト、靴」などが含まれる「第25類」
  • 「かばん類、財布、傘」などが含まれる「第18類」
  • 「時計、アクセサリー」などが含まれる「第14類」

などが想定されます。

ここで気を付けたいのが将来的な事業展開も踏まえて商標区分を特定する必要があることです。現時点での商品ラインナップに当てはまる商標区分だけでなく、今後ブランドで新たに取り扱っていきたいアイテムを検討し、それらが当てはまる商標区分においても調査を念入りに行なう必要があります。

また、商標区分は類似群コードによって細分化されています。

たとえば「第25類」の中でも洋服やコートは「17A01」、セーターやワイシャツ、下着などは「17A02」といった形式で分類されています。商標調査では特許情報プラットフォーム「J -Plat Pat」の商標検索におい商標や想定される呼び名とともにこれらの類似コードを入力し、確認していくことが大切です。

▶︎商標登録区分の調べ方・注意点についてはこちら

1-2.商標におけるオリジナリティの有無を確認しよう

次に出願を検討している商標にどれだけオリジナリティがあるかを確認していきます。商標は過去に登録された実績がなければ必ず登録が認められるものではありません。あまりにありふれた言葉や、誰もが考え得る短いアルファベットや数字の羅列では認められないケースもあるのです。

たとえばあなたが「移動販売型ブックストア」という移動型の書店を経営するとしましょう。Google検索で「移動販売型ブックストア」と検索すると、移動販売を行なうさまざまな書店のページが検索にヒットしました。



しかしながら「移動販売型ブックストア」という屋号の書店は見当たりません。これは通常のGoogle検索では類似したコンセプトや名称のWebページも検索結果に表示されてしまうためです。

そこで今度はダブルクォーテーションマークを用いて「”移動販売型ブックストア”」と入力し、完全一致検索を行ないました。するとページ上部に「”移動販売型ブックストア”との一致はありません。」との検索結果が表示されます。

しかしながらGoogle検索によって、この「移動販売型ブックストア」はすでに似たビジネスが多く展開されていることがわかりました。併せて似通った屋号がすでに多く使用されていることも判明しました。

このように決して先端的な事業内容や屋号でない場合、商標の類似によって登録が認められない可能性も考え、同業他社の情報を広く収集して最終的な出願に臨む必要があるでしょう。

同様に、Google検索にヒットしないだけですでに同じ屋号が商標として登録されている可能性もあるため、特許情報プラットフォーム「J -Plat Pat」も活用しましょう。

1-3.どの程度のリスクがあるか想定しよう

1-1・1-2において、同じ商標あるいは似た商標がすでに登録されていないか、商標にオリジナリティがあるか否か、といったことを確認してきました。

もちろん特定した商品区分において、すでに同じ商標が登録されていた場合はそもそも商標を考案し直す必要があります。まったく同じではなくとも非常に似た商標が登録されている場合も考え直したほうがいいでしょう。専門知識を持たない場合、自力でできるのはこうした判断が限界です。

しかしながら実際の商標登録における審査は複雑であり、過去の判例や商標審査基準に則って慎重に行なわれています。時間をかけて調査してもその方法が間違っていたり、範囲に抜けや漏れがあったりしては苦労も水の泡です。

また、正確な範囲で調査ができたとしてもその情報をもとに的確な判断ができなければ台無しでしょう。そのため商標調査の段階から弁理士に依頼することが商標登録の確度を高める1番の近道と言えます。

▶︎商標登録!知っておきたい費用と相場についてはこちら

商標調査にかかる費用

それでは商標調査に必要な費用を確認してみましょう。

自力で調査を行なう場合

専門家を頼らず特許情報プラットフォーム「J -Plat Pat」とGoogle検索で自ら調査を行なう場合、基本的に費用はかかりません。一方で費用が発生しないかわりに膨大な時間を費やし、専門知識がないことでリスクを見落とす可能性なども考えられます。

代行機関に依頼する場合

外部に調査を依頼する場合、必要な費用は1区分につき3万円程度が相場です。一部では調査費用が無料となるケースもありますが、その場合は出願を前提にしており出願手続きの費用に調査費用が含まれていることが考えられます。

商標調査の意外な落とし穴

最後に商標調査で気を付けておきたいポイントを解説します。特許庁の指定する商標区分は複雑であり、専門知識がないと判断が難しいケースが数多くあります。

たとえばあなたが「App Store」や「GooglePlay」などでダウンロードできるタイプのネイティブアプリを開発し、商標出願を検討していたとします。この場合、多くの人が「コンピューター、ソフトウェアの開発」を含む「第42類」を選択しがちです。

しかしながら「第42類」はオンライン上でサービスを提供する場合の商標区分。ネイティブアプリの場合、実際には電子機器どの商品を提供する区分である「第9類」が該当するのです。また、もしもアプリ上で広告による収益を得たい場合には広告事業を含む「第35類」も併せて登録が必要になります。

このように一見しただけでは見落としや選択間違いなどが発生することもあり、専門知識を持たない人が自力で調査を行なう際には範囲を誤ってしまうことが多いことが実情です。

さらに調査段階では抜けや漏れがなかったとしても、その商標で将来的に事業内容を拡大する場合なども注意が必要です。

たとえば1-1で解説した服飾雑貨の取り扱いを含むアパレルブランドでは、商標区分を

  1. 「洋服、ベルト、靴」などが含まれる「第25類」
  2. 「かばん類、財布、傘」などが含まれる「第18類」
  3. 「時計、アクセサリー」などが含まれる「第14類」

の3つに絞って調査を行なったとします。

あなたは出願後にアイテムの幅を広げたいと考え、ベッドシーツやテーブルといった生活雑貨および家具の取り扱いも検討し始めました。この場合、考えられる商標区分は家庭用の織物製品などを含む「第24類」、家具などを含む「第20類」です。

しかしながらあなたはこれらの商品展開を諦めざるを得ない事態になりました。調査の段階では範囲に含めていなかったこれらの商標区分で同一の商標が登録されていたためです。

このように商標調査では現段階の事業内容はもちろんのこと、将来的な事業展開なども踏まえて慎重に過不足なく行なうことが必要なのです。

▶︎商標調査のやり方・費用についてはこちら

まとめ

せっかく無料でできるなら、自力で済ませてしまいたいと考えがちな商標調査。しかしながら実際には非常に奥が深く、膨大な専門知識が必要です。

せっかく商標を登録できても事業を展開する上で思うように権利を行使できなくては本末転倒でしょう。リスクを避けるためにも専門家の知見を頼り、正確に手続きを進めていくことが大切です。