我が国には自社のサービスや製品を他社のものと識別するための目印として、さまざまなデザインや商標が存在します。しかしながら企業にとって商標出願は当たり前の行為ではありません。中小企業やスタートアップ企業など、新規事業の展開や新製品の開発などをきっかけに初めて自社の知的財産に取り組むという会社も多いでしょう。
人員や資本が限られている環境では、社内に専門部署などがなく知識を持っている社員もなかなかいないという課題を抱えています。
そのような状況でも商標出願・登録を初めて経験し、知財戦略を進めている企業は多く存在します。そこで、この記事では事前準備から出願の流れまで解説します。

商標権が取得できるまで
自社の商標を登録するには、まず特許庁へ商標登録の出願をして審査に通過しなければなりません。
出願前の確認事項
商標登録には、出願を行なう前に必要な準備があります。一つは先行商標調査、二つ目は商標が登録可能であるか否かの確認です。
まず先行商標調査では、他社が同一または類似の商標登録を行なっていないかどうかを調査します。もしも同一または類似の登録商標が存在した場合、出願をしても審査段階で拒絶されてしまうためです。
また、その際には先行企業の商標権を侵害してまう恐れがあるため、原則として商標を変更しなければなりません。仮にこのリスクに目を瞑って同一または類似した商標を使い続けてしまうと、訴訟を起こされてしまったり、先行企業を含む同業他社や消費者からの印象が悪くなったりと、自社にマイナスなイメージが定着してしまう恐れがあります。
そのため、先行商標調査を行うのは商標登録出願前はもちろんのこと、商標を考案する段階で情報を集めておくことが重要です。
次に登録が可能な商標であるか否かの確認です。特許庁では、次のような商標について登録が認められないと定めています。
商標として認識されないもの
商品名などにおいて、産地や品質などを表示しているに過ぎない商標は特許庁で拒絶されてしまいます。たとえば栃木県産のほうれん草に商品名をつける際、産地である「栃木県」の文字だけを商標として設定してもそれは産地を表しているだけに過ぎません。また、防水機能のついたスマートフォンで「防水」の文字だけをネーミングとすることも同様です。
公益に反するもの、誤認の恐れがあるもの
たとえばあなたの出身県で新たなゆるキャラが誕生して人気を博していたとします。あなたはビジネスに活用しようと特許庁にゆるキャラのネーミングについて商標出願を行ないましたが、拒絶されてしまいました。
これはゆるキャラが公益的な団体である県の管理するキャラクターであり、一企業や一個人が独占することが不当であると考えられるためです。
また、コーヒー飲料であるにもかかわらず「○○紅茶」という商品名がつけられている場合も登録は認められないでしょう。消費者が紅茶であると誤認してコーヒーを購入してしまう可能性があるためです。
他社製品やサービスと混同の恐れがあるもの
たとえば、あなたの勤める会社で「AAA目薬」という薬品の開発・販売を手がけていたとします。このたび商標を出願するにあたって調査を行なったところ、同業他社で「AAA’目薬」という薬品が販売されていました。
効果・効能も類似しており、一般の消費者はどちらの薬品も同じメーカーの製品であると混同してしまうと考えられます。
また、仮に「ネーミングやロゴマーク」だけが同一または類似しており「商品の機能や役割」が異なる場合でも、先行企業の商標が一般に広く知れ渡っている場合などにおいても拒絶されてしまう可能性があります。
業務に関連性がない、あるいは今後も使用する意思がないもの
特許庁では「先願主義」といって、先に商標を使用していたか否かを問わず先に出願を行なった出願者に対して登録を認めていますが、すべてのケースでそうであるとは限りません。
たとえばあなたが製薬会社に勤めているのにもかかわらず飲食関連の役務を担う商標を出願し、現段階で飲食関連の事業を展開しておらず、今後もその予定がなければ商標は認められないでしょう。
特許庁ではこうした状況について「出願人の業務に無関係な商標を出願されても商標登録が認められることはない」という内容の注意喚起を行っています。
分類が明確でない商標
出願の際には商標の権利範囲を指定する必要があります。これは登録された商標がどの範囲で権利が保護され、独占や活用ができるかを明確にする上で重要なポイントです。
そのため、機能や役割がはっきりとしない商標は登録が認められません。適切な表示・区分については、特許庁ホームページ「類似商品・役務審査基準」およびJ -Plat Pat「商品・役務名検索」で確認できます。
審査の流れ
1で挙げた先行調査や確認作業を経て、いよいよ商標登録出願です。出願方法は三種類
- オンライン出願
- 特許庁の窓口への持参
- 特許庁への郵送
の中からいずれかを任意で選択できます。
出願料は特許印紙で3,400円+(区分数×8,600円)。窓口への持参または郵送の場合、特許印紙(出願料)と電子化手数料(1,200円+枚数×700円)が必要となります。
1.方式審査
出願を済ませると、まず最初に行なわれるのが方式審査です。ここで書類の形式や料金などが出願内容に則しているかどうかを審査されます。現在、出願から最初の審査までは平均で1年ほどの期間がかかります。
2.実体審査
次に行なわれるのが実体審査です。審査内容はその商標を登録できるか否か。ここで登録が認められないと判断された場合、出願者のもとに拒絶理由通知が届きます。
出願者はこの通知に対して意見書や補正書を通じて再審査の申し立てを行なうことができます。さらに意見書・補正書を提出しても拒絶査定をされてしまった場合、出願者は次に査定不服審判を請求して審査結果の撤回を求めることができます。
3.登録査定
実体審査を通過すると、いよいよ登録査定です。この段階で登録できないなんらかの理由が見つからなければ、登録料(28,200円/1区分 ※10年分一括納付の場合)の納付を経て商標が登録され、晴れて商標権が発生します。商標権は10年ごと、半永久的に更新が可能です。
また、出願日から2~3週間が経つと公開広報で出願情報が一般の人々へ明らかになります。これは審査の段階で公開されるため、出願されたあらゆる商標が対象となります。
まとめ
初めて商標を出願する際には事前調査や確認などに手間取ってしまうことも多いでしょう。しかしながらサービスや製品の顔ともいえる商標は企業の要となる存在。
他社の模倣を抑止したり、自社のブランド力を向上させたりと、商標登録によって多くのメリットが得られます。事前準備から権利の存続期間の更新まで押さえておくべきことはシンプルなので、一つひとつを着実にこなしながら自社の知的財産である商標を保護し、活用していくことが大切です。