特許権の有効期限とは?意外と知らない期限の落とし穴!権利消失も交えて解説

独自の発明において、他者の模倣などの行為から守ってくれる特許権。この権利には期限があり、所定の期間を過ぎてしまった場合には効力を失います。さらに、管理不足や外部からの働きかけによって、期限内でもその権利を消失してしまうケースがあるのです。この記事では、そんな特許権の有効期限や権利消失のケースについて解説します。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

特許権の有効期限

特許権の有効期限は最大で20年。20年を過ぎると対象の発明は誰もが自由に無償で利用できるようになります(医薬品のみ最大25年)。しかしながらこの20年という期間には、いくつかの落とし穴が存在します。

有効期限のカウント開始日

特許権の最大20年間という有効期限。この期限について、まだ出願などを経験したことのない多くの人々が勘違いしていることがあります。それは、有効期限のカウントが開始される日程です。

この記事を読んでいる方の中にも、「特許権が取得できた日から20年」だとお思いの方もおられるでしょう。しかしながら、特許法で定められている特許権の有効期限は「出願日から最大20年間」なのです。

出願から取得までの流れと期間

それでは具体的に、出願から権利取得までどれくらいの期間がかかるのでしょうか。ここで気を付けなければならないのが、特許は出願をしただけでは審査が開始されないということ。

特許庁に審査をしてもらうには、出願後に改めて「出願審査請求」が必要です。出願審査請求後に審査の結果が出るまでの期間は、その際に審査待ちとなっている出願の数により前後しますが、現在は出願審査請求日から10ヶ月程度となっています。

また、最初の審査では出願審査請求を行なった出願者のうち8割ほどが「拒絶理由通知」という特許が認められない旨の通知を受け取ることとなります。そしてこの通知に対して意見書や補正書などを提出して再び審査が受けられるようになります。

こうした一連の手続きを経て特許を取得できるのは、出願審査請求日から平均で1年2ヶ月程度。この時点で1年2ヶ月の期間が過ぎているため、出願からすぐに出願審査請求を行なったとしても、取得日以降排他的な権利が発生する期間は最大で18年10ヶ月となるのです。

仮に出願から出願審査請求までの期間が大きく空いてしまった場合には、さらに注意が必要です。出願審査請求の手続きは出願後3年以内まで可能です。つまり3年間の期限ぎりぎりに出願審査請求を行なった場合、3年間+1年2ヶ月で、出願日から4年2ヶ月ほどが経過してしまう可能性もあるのです。

権利取得までの1年2ヶ月という期間は前述の通り、あくまで平均値です。そのため平均よりも早く権利化できることもあれば、審査が長引き平均よりも長期間にわたる可能性もあることを念頭に置いておきましょう。

▶︎一目でわかる!特許出願に必須の6ステップについてはこちら

特許権の消滅

特許権は、管理を怠ったり外部から特許無効審判などを請求されたりすることで、その権利が消滅してしまうことがあります。どのような事態が起こることで、権利が消滅する可能性があるのかについて解説します。

特許料の納付漏れ

特許権は、特許査定を受けてから1~3年分の特許料を納付することにより発生します。特許権を長期的に保有したいと考える場合には、4年目以降にも特許料を支払わなければなりません。

しかしながら、特許料については特許庁から請求書などの通知が届くわけではありません。特許を取得した際、特許証に同封された納付期限通知に従って自主的に納付する必要があります。

更新時期に支払いをしなかった場合でも追納期間が6ヶ月設けられているため、遅れて納付することも可能です。ただし追納期間に突入すると、納付すべき特許料は通常の2倍の金額となってしまうため更新時期に忘れず支払いをしておくことが望ましいです。

さらに1-1で解説した通り、特許権の有効期限は「出願日から最大20年間」。追納期間中にも特許料を支払わなかった場合、特許権は消滅してしまいます。

特許権を放棄したい場合

特許権は維持自体に費用がかかります。そのため利用する見込みのない権利については自主的に放棄することも可能です。

権利放棄について最も簡単な手段は、2-1.で解説したように更新時期および追納期間中に特許料を支払わないこと。特許庁から督促などをされるわけではありませんので、支払いをしないことで権利は自動的に消滅します。

期限を待たずに権利を放棄したい場合には、「放棄による特許権抹消登録申請書」を特許庁に提出する必要があります。

特許無効審判の請求

他者から特許無効審判を請求され、その請求が認められてしまった場合には特許が遡って無効になってしまいます。
特許無効審判とは、対象の特許が無効であることを示す証拠を特許庁へ提出し、権利を無効化させることを求めるもの。

たとえばA社がB社に対して特許権の侵害訴訟を起こした際、B社の対抗策として特許無効審判を請求されることがあります。「A社の保有する特許にかかる発明は新規性や進歩性に乏しい」といった主張とその証拠となる資料を提出し、権利侵害の訴訟そのものが誤りであることを訴えるというケースです。

実際に、特許無効審判請求によって多くの特許権侵害訴訟の審理が左右されています。

ファーストリテイリング社の事例

アパレルブランド『ユニクロ』を展開するファーストリテイリング社は、大阪のIT関連企業アスタリスク社より2019年9月に特許権侵害で訴訟を起こされています。争点となっているのは、ユニクロおよび子会社が展開するジーユーの店舗に導入されているセルフレジの構造。

この訴えに対してファーストリテイリング社は「この技術は従来から存在するものであり、同業の他者が容易に考案できるアイデアである」として特許無効審判を請求しています。

この特許無効審判の請求では、2020年8月に4つの請求項のうち3つまでが無効であるという審決が下されました。つまりアスタリスク社の特許にかかる特許請求の範囲のうち4分の3の権利が認められないという結果です。

これによりファーストリテイリング社が優位な立場であるように思われましたが、両社ともにこの結果を受け入れられないとして審決取消訴訟を提起。2021年5月には4つの請求項すべてが有効であるとの逆転判決が下されています。
これに対し、ファーストリテイリング社は最高裁に上告を行なっており、判決次第で侵害訴訟の動きが左右されるという状況です。

▶︎ユニクロ VSアスタリスク社の特許紛争についてはこちら

▶︎任天堂VSコロプラの特許紛争についてはこちら

まとめ

特許は取得までにさまざまな手続きを要しますが、決して権利取得がゴールではありません。発明を事業などに役立てていくためには、権利を消失しないために適切に管理することが必須です。

個人や専門知識を持たない企業では管理しきれない、といった場合には特許事務所に管理を依頼することがおすすめです。出願などの手続きを特許事務所に任せている場合には、取得後の管理もそのまま任せることができます。

また、請求項の拡大や見直し、さらには訴訟の対応なども出願に携わった特許事務所に相談できるというメリットもあります。特許権についてこれから出願を検討しているという場合には、権利取得後の管理も含めて特許事務所を取捨選択すると良いでしょう。